003 腕を動かす

 仕事中パソコンが側にないことが少なくなりました。朝会社に着くとまずパソコンを開き、一日のスケジュールの確認とメールのチェックをします。仕事が始まればいくつかの便利なソフトウェアサービスを使うことによって、仕事仲間と素早くコミュニケーションを取ることができるようになりました。

 しかし、パソコンがあることでとても便利になったと同時に弊害も増えました。パソコンに向かえばメールやコミュニケーションツールの通知が目に入ってしまい、そちらに気を取られ目前のことに集中できないことがあります。様々なソフトウェアツールを同時に扱わなければならず、一つの作業に集中することが難しい場合もあります。プレゼンテーションツールを使用する際は簡単にページを増やすことができるため、気がつけば必要のないページを作ってしまっていることもあり、伝えたいことが先なのか?ドキュメントを作ることが先なのか?その判断がつかなくなる時もありました。

 感情と身体は表裏一体と言われています。感情が変わればそれに身体も反応する。悲しいと涙が出るという現象と一緒です。反対に、身体が変わればそれに呼応して感情も変わると言われています。口角を上げて笑顔を作れば嬉しい気分になる。実際に口角を上げてみるとその効果を少し実感できるはずです。ずっとPCに向かっている状態は身体が硬直している状態にあり、感情に良い変化をもたらすには不向きな状態と言えるかもしれません。PCでの作業が増えたことによって、私自身頭の中がモヤモヤとしてスッキリしない時期がありました。

 そんな時に、知人が私に万年筆を勧めてくれました。ドイツの老舗メーカーのベーシックなモデルです。プラスチックでできていますが非常に手に馴染みが良く、とても良くできたプロダクトです。万年筆を使い続けてみて気が付いたことは、腕を動かすことのメリットです。通常のペンよりも少し大きめに描いていくのですが、姿勢を変え、腕を動かし、自分の思考を紙の上にまとめていきます。そうすれば不思議と意識が研ぎ澄まされ、集中することができ、考えることが楽しくなる自分がいます。腕を動かす身体の動きによって、自分の感情にも良い変化が起きているのではないかと考えています。

 紙の上に向かっていればメールの通知に邪魔されることもありませんし、目前の文字に集中することができます。描ける範囲も物理的に決まっているため、その範囲の中で収めようとします。万年筆の書き心地と相まってとても気持ちの良い時間を過ごすことができます。パソコンでやるべきことはパソコンでやり、集中して思考したい時には万年筆と紙を用意して腕を動かしてみる。そういう時間も充足を感じることにつながるのではないでしょうか。

鳥越 康平

鳥越 康平

http://zeppelin.co.jp

京都工芸繊維大学、工芸学部造形工学科卒業後、韓国サムスン電子にてデザイナーとして携帯電話などの最先端機器の開発に従事。帰国後2005年10月にZEPPELINを設立。

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