「起業家」にとって一番大切なこと

「起業家」にとって一番大切なこと

二週間ほど前に、知り合いの紹介である人に会いました。大手メーカーに勤めている方ですが、独立・起業を考えており、相談に乗ってやって欲しいとのことでした。

どんな相談に乗れるものかと思い会ってみたところ、起業したいとは考えているものの、「何をしたい」というはっきりとしたものがあるわけでもなく、幾つかの「新製品のアイデア」を持ち、どのアイデアで進めていくべきかを悩んでいる、という感じでした。

私も新製品のアイデアの話は大好きだし、アイデアを膨らませるブレストは得意な方ですが、このケースではちょっと困ってしまいました。そもそも「何を目指して起業するのか」というビジョンが根本的に欠けていたからです。

以前、とあるメーカーの事業部長さんに「タブレットを作りたいが相談に乗って欲しい」と頼まれたことがあります。私が「なぜタブレットを作りたいのですか?」と尋ねると、「パソコンビジネスも頭打ちなので、タブレットで巻き返したい」というどうしようもない理由だった ので、がっかりしてしまったことがあります。

製品作りは、常に「目的」が最初になくてはなりません。それもその目的は「タブレットで巻き返したい」のような自分のためのものではなく、その製品を使って実現したい世界の話でなくてはなりません。

例えば、「学校の教室で、一人一人の子供の理解度に応じた個別指導をしたい」というはっきりとした目的があった上で、そこに必要なサービスはどんなもので、どんなデバイスが適しているのかを考える必要があるのです。

起業の場合も全く同じで、最初にあるべきなのは製品のアイデアではなく、「どんな世界を実現したいのか」というビジョンなのです。ビジョンがあるから良いアイデアも生まれるし、良い人たちも集まってくるのです。

ビジョンなしに、製品のアイデアをいくつか並べ、「これなら儲かりそうだ」というものを選んで起業するアプローチでは決して良いものは作れないし、魅力的な経営者にはなれません。

そこで、彼が持ってきた新製品のアイデアはさておいて、「そもそも、世の中のどんな問題を解決したいのか?」と質問しました。

すると「教育をなんとかしたい」という答えが返って来ました。「子供達が勉強の仕方を知らない、勉強に集中できない」ことが問題だと言います。さらに掘り進めると、根本の問題は「子供達が勉強が好きじゃない」ことにあるという話にまで発展しました。

ここまで掘り進んで、ようやく、彼が「実現したいこと」が見えて来ました。「子供達が自ら進んで、楽しんで勉強をする世界」を実現したいのです。

これは起業に値する素晴らしいビジョンだと思います。これぐらいはっきりとしたビジョンがあれば、「それを実現するためにはどんなサービスや製品が 必要か」というアイデア出しをすることがとても簡単になるし、そのビジョンに共感して一緒に働いてくれる人を見つけ出すことも容易になります。

彼に伝えたのは、起業において最も重要なことはビジョンであり、起業家がビジョンを熱く語ることが出来なければなければ、一緒に働いてくれる人も、投資家もビジネスパートナーも見つけることが出来ない、ということです。

※まぐまぐ!で配信している「週刊 Life is beautiful」の内容を一部転載・編集しております。

週刊 Life is beautiful

中島 聡

中島 聡

早稲田大学大学院理工学研究科修了。高校時代からソフトウェアの開発に携わり、大学時代には日本のCADソフトの草分け的存在である「CANDY」を開発。大学卒業後は研究員としてNTTに務めた後、マイクロソフト日本法人を経て、1989年にマイクロソフト本社に移籍。Windows95/98、Internet Explorer3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めた。2000年にマイクロソフトを退社しUIEvolution Inc.を起業。現在は同社取締役として在籍。2010年にneu.Pen LLCを設立し、iOS向けアプリ開発に携わっている。2014年5月にZEPPELINのCTOに就任。主に新規事業を推進している。

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