未来に“残るデザイン” 第3回「あるべき姿を叶えるデザイン」

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第3回 あるべき姿を叶えるデザイン

板坂諭(建築家/プロダクトデザイナー)

2010年にh220430名義で活動を開始し、2012年に株式会社the design laboを設立。建築・家具などを題材として、単にモノの形をデザインするのではなく、そのモノに込めたメッセージをもとに生まれる、二次的なコミュニケーションをデザインされています。
2011年に中国メディア主催のMedia AwardでAnnual Original Products Design Award、2013年にはイタリアのA’Design AwardでBaby,Kids and Children’s Products Design Category銀賞を受賞。 2012年には「Mushroom Lamp」がサンフランシスコMOMAのパーマネントコレクションとして収蔵され、2014年に開催されたミラノサローネでは、新作プロダクト「Balloon Chair」を出展されています。

鳥越
実は、これから、何か減らす事業ができないかなと思っています。
板坂
減らす事業ですか。
鳥越
減らす事業。
宣伝会議2月号のインタビューでも触れているんですが、
例えば、高速道路。
既に十分と言える程、日本中に張り巡らされていると思いませんか?

「増やす」ことを見直し「減らす」ことが
イノベーションだと言われる時代になってほしいと思っています。
板坂
それはいいですね。
本当、それは僕も目指しています。

鳥越さんの話を聞いて思い出したのですが、
僕は「引くデザイン」をやりたいと思っています。
日本の浮世絵って、
わざと1色抜いているという話をご存知ですか?
鳥越
いいえ、そうなんですか。
板坂
安藤広重にしても北斎にしても、
実は、最後の加えるべき1色を抜く手法を用いているそうなんです。

例えば、マリリン・モンローが
綺麗な肌にあえて泣きぼくろを付けていたのと同じように、
浮世絵師は、その絵に何か少し不完全さを持たせることで、
より魅力を感じさせるということを計算してやっていたそうなんです。

本当に素敵だなと思っていて。
鳥越
いいですね、すごいな。
板坂
それで、最近受けた依頼の中に、
「引くデザイン」ができないかと思っているものがありまして。

東北のとあるカフェの内装デザインのご依頼で、
「集客が思う様にいかない」
というご相談を受けて見に行ってきたのですが、
自分が手を加えることは何もないと感じたんです。

この地域は、建築物を大事にする土地柄で、
例えば、前川國男さんという、コルビュジエ※を師匠に持つ
有名な建築家の建築が、沢山残されているのですよ。

(※ Le Corbusier。建築家。「近代建築の三大巨匠」の1人。)

鳥越
コルビジェの建築って世界遺産にもなっていますよね。
板坂
そうなんですよね。
そのような背景もあり、残されている建築も本当に素晴らしくて。

そのエリアのガイドブックには
「趣のある建築巡り」のようなタイトルで、
前川さんの建築を巡るルートなんかも紹介されているんです。

建築家として、
一般の人が建築を巡るって不思議だなとも感じるんですが、
それが成立する位に素敵な建物がいっぱいあるんですよね。

先程のカフェの話に戻ると、
そのカフェは、100年位前に建てられた富豪の別邸の中にあって、
やはり歴史を感じさせる趣のある空間だったんです。
だからこそ、そこに自分が手を加えることは何も見つからなかった。

逆に、その空間に似つかわしくない装飾や
販売がされていたりしていたことに対しては、
強く違和感を感じましたね。
季節柄だったのかもしれませんが。

だから、もし僕が依頼引き受ける事になったら、
全部取り除いてピュアな状態に戻すことをしたいと思っています。
鳥越
「引くデザイン」ですね。
板坂
そうですね。
提供するサービスを含め、本来のあるべき姿、その状態にすることで、
それを求め来てくれるお客さんがいると思うんですよね。
鳥越
なるほど。
今のお話を受けて改めて思うのは、
重要なのは、作った後のことを考えることですよね。

無くすこと、減らすことの価値を
受け入れられる時代を作っていく必要性を感じますね。
板坂
本当にそうですね。

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鳥越
先程のお話の中でも、
「建築って一瞬で終われない」と仰っていたように、
建築って何十年、何百年の世界じゃないですか。
板坂
そうですね。
鳥越
私は、今の事業の中で「体験」という言葉を使うことが多いのですが、
板坂さんは、建築を造るときに「体験」というのは
どう設計されているのでしょうか。
板坂
そうですね…
「思い遣られている」ということを
いつか気付いてもらえるようにデザインする、と表現できる気がします。

僕が自分の中で目指しているのは、
5年、10年という時間が経って初めて気付く、
むしろ時間が経過しなければ気付かない位の
こだわりを随所に入れるようにしているんです。
鳥越
さりげない気遣い、という感じでしょうか。
板坂
そうですね。
例えば、一般的な巾木の大きさってこれ位の幅なのですけれど、
僕はその3分の1程度まで小さくしたり、無くしたりするんです。

日本の空間ってどうしても狭いことが多いので、
全てのものが低かったり小さかったりして、スケールを感じにくいので、
広がりを持たせる工夫としてやっています。
鳥越
空間全体を捉えて計算されているんですね。
板坂
巾木って、
ボードと床の間にできてしまう隙間を隠すために使われるので、
一般的にやるとこのサイズになる。
でも、もっと小さくてもいいんです。
僅か2~3センチの違いでも、小さい方が、空間が広く感じるんですよ。

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板坂
自分が造った家に住まう方が、
5年位経って、どこかで巾木を目にした後に、
その違いに気付いてくださったらなと思っています。
鳥越
いいですね。
板坂
誤解しないでいただきたいのは、
標準的なサイズを使うことが悪いと言っているのではなくて、
そういう小さなこだわりを随所に入れることで、
同じ大きさの空間でも感覚的な違いが生まれること、その良さに、
いつか気づいてほしいなという思いがあるんです。

照明なんかも、用途によって色味を変えてみたり。

お客さんから依頼を受けてやるわけではありませんが、
結果的に、ある時
「なんか、うちの書斎は集中できるよね」
と気付いて、実は3500K位のクールな感じの色温度を使っていたとか。
そういうのを数年後に気付いてくれたらいいなと思っています。
鳥越
なるほど。
以前拝見したのですが、
石を削って通されていた手すりも、それに近いのでしょうか。
何年経っても全然古びないデザインの…
板坂
そうですね。
そういった点に気付いていただけるのは、すごく嬉しいですね。
特に言葉にして説明しないことなので。

実際にやっているのは職人さんなんですよね。
職人さんの、言葉にせずとも時を越えた配慮ができる姿というか、
それを美徳としてやっている姿から学び、
僕もその気質を大事にしていきたいと思っているんです。
鳥越
巾木とは違って、
普段見えていない場所にも、こだわられている点があるのでしょうか?
板坂
ありますね。
解体されるときに初めて気付く位のこともやっています。

例えば、庇(ひさし)がドーンと出ていて、
力学上で考えると
何でこの庇が木造でもっているんだという建物がありますが、
一般の方は、家を買い、住む…という生活の中で、
建物の構造まで深く考えることはあまりないと思うんです。

その建物が造られるために、
内部がどんな構造になっているのかって、分かり辛いんですよね。

実は、天井をはがすと、
庇を支えるための梁が、通常よりも長く伸びているんです。
つまり、この庇をもたせるために、3倍も長い梁が、
天秤のようにバランスを取っているからもっているんですね。

でも、外側からは見えない。
その庇のために、中でどれだけ梁が頑張っているかというのは、
解体してみないと分からないのです。

そういうこだわりは、ちょこちょこと入れているつもりですね。
鳥越
すごいな。
私も造りたい家の理想像があって。
テクノロジーを徹底的に見えなくして、より自然体で
快適な状態が保てている家を造りたいんです。
板坂
なるほど、いいですね。
鳥越
家の内装は、古き良き日本文化を継承している感じにしたいんです。
例えば、土間って、色も含めて、
そこで料理をするという空間が、結構明確に切り取られていますよね。
しかも、地面のままだから、かなり冷える。

そこに床暖房が入っていたりとか、
かまどがありつつも、すぐ着火できるようになっていたりとか。
テクノロジーは隠しつつ、
日本の良い文化を受け継いだ建物を造ってみたいんです。
板坂
面白いですね。

僕の中では、相手を想うデザインみたいなのが理想で、
そのデザインの集積を建築でやりたいと考えているのですが、
今はそれを、試行錯誤しながら一つひとつやっているところですね。
鳥越さんとも何か一緒につくれたらと思いますね。
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