未来に“残るデザイン” 第2回「『紫のサル』の教え」

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第2回 「紫のサル」の教え

板坂諭(建築家/プロダクトデザイナー)

2010年にh220430名義で活動を開始し、2012年に株式会社the design laboを設立。建築・家具などを題材として、単にモノの形をデザインするのではなく、そのモノに込めたメッセージをもとに生まれる、二次的なコミュニケーションをデザインされています。
2011年に中国メディア主催のMedia AwardでAnnual Original Products Design Award、2013年にはイタリアのA’Design AwardでBaby,Kids and Children’s Products Design Category銀賞を受賞。 2012年には「Mushroom Lamp」がサンフランシスコMOMAのパーマネントコレクションとして収蔵され、2014年に開催されたミラノサローネでは、新作プロダクト「Balloon Chair」を出展されています。

鳥越
私は大学1、2年生のときに建築の基本概念を学んだのですが、
クルーにも建築を学んで欲しいと思っているんです。

建築って、建物そのものだけを考えるということはなくて、
必ずその周りの環境や時代背景、
何百年続いている建築の歴史についても考慮しますよね。
もっと言えば、都市や国、世界という広い視野で考えるじゃないですか。
板坂
鳥越さんみたいにいい志を持った建築家はそうですよね。
現代の建築家はほとんどそれが足りていない気がするので、
僕も今のお話を聴きながら反省していますが…
そう在るべきですよね。
鳥越
(笑)
私は、そういった建築家的な考え方や視点を、
みんなに持って欲しいと思っているんです。

これからの時代に必要なのは、
社会の流れや日常生活の文脈の中から
「在るべき」姿を検討されたアウトプットだと思うんです。
ただ残念なことに、割と今の日本は、
建築に限らず思い付きのようなアイディアが
騒がれる傾向がある気がしていて。
板坂
確かにそうかもしれませんね。
鳥越
1年程度の短いスパンで、
何の信念も信条も、歴史的な背景も感じられないようなものが作られ、
どんどん増え続けている気がするんです。
板坂
確かにそうかもしれませんね。

建築って一瞬で終われないんです。
造るのに少なくとも10カ月位はかかるし、
住宅が使用される平均寿命は27年とか言われていますが、
本当は60年、もっと言えば100~200年もってほしい。

それくらい長いスパンのものだから、
残ることを前提に計画しないといけないんです。

けれどもアプリなんかは1シーズンだったり、
その瞬間だったり、単発的になりがちですよね。
だからその先を見据えているのか、
今を見ているのかというのは分かりませんが。

Appleの製品にはきっとそういう視点があって、
もしかしたら100年先の未来に
美術館に飾られていてもおかしくない基準で、
ソフトもハードも作られているような気がしますよね。
そういう意味での建築的な手法は、全てのものに欲しいですよね。
鳥越
アメリカって、日本やヨーロッパに比べると歴史が浅いですよね。
浅いという側面と、だからこそ残るものをつくりたいという側面が
いいバランスで存在することが、
Appleのものづくりの精神に通じている気もしますね。

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板坂
そうかもしれないですね。

歴史といえば、鳥越さんはITという
歴史が浅いジャンルで活動されているじゃないですか。

建築って、先程お伝えしたように
何百年も前から続いていて、既に歴史ができ上がっているんです。
それを激変するというのは非常に難しい。
だからこそ歴史をつくっていける職業というのは羨ましく感じます。
鳥越
そうなんですね。
板坂
僕も歴史をつくるようなことをやっていきたいと思っているんです。
ただ、建築で歴史をつくるということがどういうことなのかは、
まだ明確にできていないので、
こういうお話をしながら見つけていきたいと思っているんです。

というのも最近、歴史ある会社にご縁がありまして。
約200年前に創業したフランスの会社で
今は6代目になっているんですが、
その会社の社長の書斎が、博物館みたいになっているんです。

そこには、その会社が作ってきたものや、
初代、3代目がコレクションしたものが所蔵されていて。
そこにいると、その会社の歴史だけでなく、
彼らがやりたいことも感じ取れました。
鳥越
どんなものがコレクションされていたんですか?
板坂
フランスの会社なのでヨーロッパのものが多かったのですが、
意外にも、日本のものも結構たくさんありました。
特に百何十年も前のものがダーッと並んでいて、
それらを見ていると、
歴史があるものの強さのような、そんな魅力を感じたんですね。

建築というジャンルに拘らなくてもいいのですが、
僕は、100年、200年先でも保存されていて、
しかもそれが「美しい」
と言ってもらえるものを作りたいと思っているんです。

それが鳥越さんのジャンルだと、
我々よりも実現できる可能性があるのかなという意味で、
羨ましいと思っています。
鳥越
なるほど。
板坂
そういえば、ひとつ非常にいい教えをいただいたんです。

その会社はもともと馬具を作っていて、
ずっと馬に偏った仕事をしていたんです。
しかしモータリゼーション時代がきて、
移動手段の主流が馬から車になり、ニーズが減ってきた。
しかし、1代目、2代目は根っからの職人さんで
馬具から離れられなかったんですね。

その後、3代目が海外をいろいろ見て回るうち、
「もう馬具は駄目だ、車の時代だ」
と言って、そこで方向転換をしたそうなんです。
鳥越
何がきっかけだったんですか?
板坂
紫のサルをロゴマークに用いた
BIENNAIS※という銀食器メーカーとの出会いだったそうです。

書斎には、その会社が作ったこれ位の箱が、
ドンと部屋の真ん中に置いてありました。

(※ 18世紀末のフランスのシルバーウェアのメゾン。
ルーブル美術館には、ナポレオンが使用したティーセットが収蔵されている。)

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鳥越
箱ですか。
板坂
箱の中には、銀細工の小物一式がコンパクトに収められていて、
食器や箸、小さなピンセットや、
戦争で使うコンパスなんかが入っていて。
当時はナポレオンといった将軍が持っていたらしいんですが、
それを持っていると成功者の証しみたいな、
ステータスだったらしいんです。

馬具に全く関係のない品が、なぜこれほどまで
目につく場所に置いてあるのか理由を尋ねると、
その会社の製品を持つことがステータスと言われていた
素晴らしい会社が、ある時潰れてしまった、と。

なぜかというと、
銀よりも安く、大量にいいものができるメッキの技術が発達したことで、
銀製品の需要が減ったんですね。
けれども、彼らは銀にプライドを持ち、銀で作り続けた。

社会のニーズとずれがある中で
誰にも頼まれない高価なものを作り続けたことで、
経営を継続できなくなり潰れてしまったそうなんです。
それを知った3代目は、
このままだと自分達も「紫のサル」になると考え方向転換したところ、
結果的に200年続く会社になったんですよね。
鳥越
へぇー。
会社の命運を分けたかもしれない出会いでしたね。
板坂
見せてもらった銀細工は、あまりに美しくて完璧だった。

けれども、それを作る会社が潰れるというのは、
今でも十分あり得る話なんですよね。

この話を聞いて、先程のように自分の職業を尋ねられたとき、
「建築家」や「プロダクトデザイナー」と
言い切ってしまうことに躊躇するようになりました。
本当にいい教えを被ったと思っています。
鳥越
私も最近、自分の職業を
「デザイナー」と言うのは控えようかと考えているんです。

一般的な職業名を伝えてしまうと、
それでタグ付けされてしまう気がして。
枠や分野に捕われず
垣根を越えてプロジェクトに携わる人物でいたくても、
職業名を言うだけで
「あなたはデザイナーでしょ?」
みたいに、期待されることが限定されてしまう。
板坂
なるほど、確かにそうかもしれませんね。

僕の場合、建築って実はジャンルが広過ぎて、
職業建築家というのは、広辞苑に載っていないそうなんです。
「建築家って正しい日本語じゃない」
みたいなことも言われたことがあるんですが、
それ位ひとつにまとめられないものなんです。

だったら初めからそこに縛られないで、例えば
「ものに精神を注ぐ人です」
みたいな、それ位の感じで
自己紹介するといいのかなと思ったりもしています。
鳥越
いいですね。

"ものに精神を注ぎ込む"この表現だと、
多方面にいろいろな関わり方ができそうですよね。
板坂
できますね。
だから、鳥越さんがやっていることと僕がやっていることは、
もしかしたらその点では一緒かもしれないと感じています。
鳥越
そうかもしれませんね。
最終的には自分の名前だけで相手に伝わる人物になりたいですね。
板坂
そうですね、本当にそうですね。
鳥越
Appleって自分たちのことを
「PCメーカーです」とは言わないですよね。
"Apple"は"Apple"。
一足飛びにはいけませんが、
"ZEPPELIN"は"ZEPPELIN"、"鳥越康平"は"鳥越康平"…
何十年かかってもそこまでいきたいです。
板坂
それはいいですね。
そこまでいったら楽しいでしょうね。
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