”利他的UX”が作る未来 第6回「利他的UX」

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第6回 利他的UX

安藤昌也(千葉工業大学 工学部 デザイン科学科 准教授)

NTTデータ通信株式会社(現株式会社NTTデータ)を経て、1998年アライド・ブレインズ株式会社の設立に取締役として参画。ユーザビリティ・アクセシビリティを中心に経営戦略や商品開発をユーザー視点で行うコンサルティング業務に従事。ユーザエクスペリエンスに関する研究で博士号を取得後、2011年から現職。
現在は、ユーザエクスペリエンスや人間中心設計(HCD)、エスノグラフィック・デザインアプローチなどの研究・教育に従事されています。また、HCDおよびアクセシビリティの国際規格に関するISO/TC159(人間工学)国内対策委員などで委員を務められ、現在はNPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事であり、同機構認定人間中心設計専門家。専門社会調査士の資格も保有されています。

鳥越
最近、安藤先生は、
「利他的UX」ということをお考えでいらっしゃるそうですが、
具体的にはどういうことでしょうか?
安藤
そうですね…

まず、「利他的」と感じる身近な例を挙げると、
最近、ネット上で、
やってあげるデザイン、やってあげるシステムが
結構増えてきていると思うんです。
鳥越
やってあげるシステムですか?
安藤
例えば、クラウドファウンディングとかも
「やってあげている」じゃないですか。
イメージしやすいのは、Q&AとかYahoo!知恵袋とか…

それって、すごいことだと思うんです。
“集合知”と言ってしまうとそこで終わりなんですが、
“やってあげる”という表現に変えた瞬間、
「どうすれば人は”やってあげる”気持ちになるだろう」
という思考が回り始めるんです。

つまり、社会の中で何か課題を解決しようとすると、
「じゃあちょっと自分がやってやるか!」
と言う人がどれ位増えるか、ということなんです。

ここで課題になってくるのは、
どうすれば、もっとやってあげる気持ちになるのか、
ということだと思っています。

そういえば、最近、
自分の時間を売るTimeTicket※というサービスもありますよね。
誰かのために何かやる時間を売る、すごく面白いですよね。

「やってあげる」って、実は身近な事柄なんですよね。

そこでやっていることをいろんなことに転用できないかと思い、
とりあえず、「利他的UX」とか「やってあげるデザイン」
と呼んでいます(笑)

(※ TimeTicket:https://www.timeticket.jp/)

鳥越
安藤
「誰かのためにやってあげる」ということ、
これは、ますます利己的になっている現代社会では、
かなり難しいことになっていますよね。

先日、電車に乗ったときに、スマホを見ていない人を観察してみると、
誰も周囲を見ていなかったんです。
全く気にかけていない感じなんですよ、通勤時間は特に。

それだと、絶対に利他的には振る舞えないじゃないですか。

だから、例えばインターフェースで、
「人の何かをやってあげる」ということを
うまく促せたらと考えています。

これは、システムを作るだけじゃ駄目で、
「ちょっとやってあげようか」という気持ちを引き起こす、
背中をちょっと押してあげる、
そんな要素を組み込めないかなと考えています。
それを大雑把に「利他的UX」と呼んでいるということですね。
鳥越
実際に、具体的に何かされているんですか?

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安藤
いや、まだ何も(笑)

コンセプトだけあって。
今、地味にその心理学的な研究をしていて、
ちょうど論文を書いたところなんですけど。

人って、困っている人が、他人か、知人か、友人かで、
やってあげる気持ちって当然変わりますよね。

例えば、電車の中で具合が悪そうな人がいたとして、
それが他人だと思った瞬間にちょっとハードルが上がる。
でも、もし何か繋がりが可視化されたら、
即座に助けられるかもしれないですよね。
鳥越
確かに。
安藤
その繋がりが、もしウェアラブルで見えたとしたら。
現実的にはあり得ないかもしれないし
鬱陶しいかもしれないので、例えばの話ですが。
もし繋がりが見えたら、人はどうするんだろうって。

どんなシチュエーションであれば、
やってあげようという意欲はどれ位変化するのか。
今はそれを研究しているところなんです。

それが分かってくれば、
今はハードルが高くても、技術でアレンジすることで、
「ちょっとやってあげようかな」
という気持ちを芽生えさせたり、
そんなことができるんじゃないかと思っています。
鳥越
それはとても良いですね。
私も最近、電車の中でスマホを使うことで
いろんな弊害が起きているような気がしています。
インターフェースでそこを見せたいっていうのは、
結構思いますね。
安藤
今の実現可能な技術でやるとしたら、
インターフェースかなと思っています。

ただ、利他的UXでは、
「役割を作る」「役割を変えてあげるために何が必要か」
という風に言い換えることもできるんです。

実は今、都会の生活には役割が無いんです、社会の中に。
例えば、会社勤めの人の場合、
会社に行けば役割があるけど、
電車に乗っているときや
パブリックな世界の中では役割を失っているんですね。

でも、
「ここでは○○するのが、あなたの役割ですよ」というように、
社会の中での役割を気付かせることができたら、
結構違ってくると思うんです。

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鳥越
それは良いかもしれないですね。
安藤
これはただの妄想でしかありませんが。

そういう考え方で、利他的UXを考えようとしています。
いわゆるインタラクティブな製品やサービスで
実現できることではないかもしれないですね。

プロダクトというか、電車や建物の作りというか、
技術は全くフリーなんだけど、
役割を気付かせる方法を考え始めてみたいと思っています。
鳥越
それは面白いですね。
私も、そういうことを仕事としてやってみたいです。
会社の中以外で役割が無いって、まさにそうだと思って。

自分の日常を思い返すと、
仕事が終わった後、通勤中はスマホを見てしまうんですよね。
仕事の時間は終わり、と決めた瞬間に
非常にパーソナルに陥っている。

小さい頃は田舎に住んでいたから、
町内で、大掃除とかいろんな行事の中で役割があった。

ここには、インスピレーションというか、
ZEPPELINが言っているUC※に繋がるものがあったと思うんです。
「嫌だなー」と思いながらも、
キラリと光る新しい発見があったりだとか。

周囲ともコミュニケーションをとっていたんですよね。
でも今は、近所の方とコミュニケーションをとる機会が無いし、
自分の住む街にどんな人がいるのか分からない。
ちょっと勿体ないですよね。

(※ User Ecstasyの略。ZEPPELIN独自の概念で、
UXの中でも頂点にある最高に心揺さぶられる体験のこと)

安藤
勿体ないですね。

たとえ一時的であっても、大事な何かを失っていかないように、
今までの社会のフレームワークではない形で、
社会の役割を作り出せると良いですよね。

例えば、電車に乗っている間とか、
その瞬間だけでも構わない。
そういうのは何か作り出せるんじゃないかと思うんですけど。
鳥越
そういう意味では、ミクロの話になってしまいますが、
女性専用車両ってあるじゃないですか。
表現を変えると良いんじゃないかと気付きました。
安藤先生流に言うならば、
「女性を守るための車両」
みたいなネーミングにするのはどうでしょう。
安藤
良いですね。役割が生まれますね。
鳥越
ネーミングひとつでも、概念って本当に大事ですよね。
理念というか。
今、とても良いことに改めて気付かせていただきました。
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http://zeppelin.co.jp/company/

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