”利他的UX”が作る未来 第2回「『良い体験』のデザインに必要な意識」

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第2回 「良い体験」のデザインに必要な意識

安藤昌也(千葉工業大学 工学部 デザイン科学科 准教授)

NTTデータ通信株式会社(現株式会社NTTデータ)を経て、1998年アライド・ブレインズ株式会社の設立に取締役として参画。ユーザビリティ・アクセシビリティを中心に経営戦略や商品開発をユーザー視点で行うコンサルティング業務に従事。ユーザエクスペリエンスに関する研究で博士号を取得後、2011年から現職。
現在は、ユーザエクスペリエンスや人間中心設計(HCD)、エスノグラフィック・デザインアプローチなどの研究・教育に従事されています。また、HCDおよびアクセシビリティの国際規格に関するISO/TC159(人間工学)国内対策委員などで委員を務められ、現在はNPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事であり、同機構認定人間中心設計専門家。専門社会調査士の資格も保有されています。

鳥越
私、この春にすごく大きい漁師船で海釣りに行ったんです。
大人になってから初めて。

その時の体験から得た学びは
日常生活の何ヶ月分もあったと感じる位のものでした。
行って良かったと本当に思っています。
まず、色んな意味で外界と遮断されたことが大きかった。
安藤
漁師船で。
鳥越
四方を海に囲まれてるし(笑)

また、船長が厳しい人だったんですよ。
友達と行ったんですけど、初心者だからと全部教えてくれて。
餌の付け方から、釣り竿の上げ方から…
安藤
へぇ…
鳥越
実は、船長室で全部モニタリングされてて。
例えば、タナ※から、1、2mずれているだけで、
「はい、それじゃだめ、そこ上げてください」
って言われるんですよ。

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(※ 魚が餌をとったり、遊泳したりする層のこと)

安藤
すごいですね(笑)
鳥越
「えぇ?そこまで見られて釣りしなきゃいけないの?!」
みたいな(笑)
安藤
もはや釣りロボットですね。鵜飼いの鵜みたいな…(笑)
鳥越


そこでの最大の学びは…
6人同乗していたんですけど、ずーっと誰も釣れなかったんですね。
安藤
鳥越
もう、スラムダンクの安西先生の
『諦めたらそこで試合終了ですよ』という台詞を
何度も思い返してました(笑)

そしたら、最後の最後に、大きなイナダが釣れたんです。
安藤
イナダが釣れたんですか!
鳥越
イナダが釣れたんです。ただ、心から喜べなくて。
安藤
鳥越
釣りロボットだから(笑)
自分が釣ったという感覚が無いんですよね。

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安藤
成る程…それは面白い話ですね。
僕が研究していたUXの研究がまさにそれで。

「ユーザーの意欲は、どの様にその製品に対する評価に影響するか」
ということを研究していたのですが…

人って、何か行為をして、その基本的な行為の結果
何かを感じるという基本パターンがありますよね。
鳥越
はい。
安藤
実は、その行為をする前の段階に持っている意欲や予期的なものが、
後の結果を物凄く左右するんです。
当たり前のことなんですけど、
期待を持って臨んで、期待通りの結果だと基本は嬉しい…とか。

実は、スマホみたいなインタラクションの物って、
操作することが目的の達成だとユーザビリティは考えるんです。
ただ、ユーザーは、
使う前からもっと違う複雑な感情を持っているんですよね。

で、さっきの話に戻ると。
「釣るぞー!」と思って行った訳ですよね(笑)
鳥越
はい。
安藤
ところが、実際は自分の試行錯誤なんか何も無い(笑)
鳥越
釣りマシーンでした(笑)
安藤
多分船長は「釣る」ということだけをゴールに、
魚が釣れることが喜びの源泉だという風に思っているんでしょうね。
鳥越
恐らくそうなんです。
安藤
そこがユーザビリティなんですよ。
ゴール・タスクを達成する。

ところが、ユーザーである鳥越さんの目的はそれだけじゃなかった。
どんな風にやったら釣れるのかなとか、
試行錯誤したいから船に乗った訳ですよね、しかも、初心者だし。
鳥越
はい。
安藤
事前の意欲や期待みたいなものを、分かった上でデザインしていく…
そういう話で、すごく僕の研究に近い話だなと思いました。
鳥越
そうなんですね。

実は、釣りをしていた場所が、伊豆の静岡県側でも
あまり魚が釣れない地域だったらしいんです。
安藤
成る程。
鳥越
多分船長は、
「良く釣れる場所じゃないから釣らせてあげたい」
そういう思いが目的になっていて、タナとか全部指示しちゃう。
ユーザーは、釣りたいのはもちろんだけど
その過程を楽しみたいという欲求もあると思うんです。

釣れる瞬間に「ビビビ」って反応するじゃないですか。
私はあれが好きなのに、魚が針にかかったら
電動のリールで、ポチってスイッチを入れて
ウィーンってあげろと指示される(笑)

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安藤
鳥越
全く楽しめない(笑)
安藤
自分で巻き上げることすらできない(笑)
鳥越
UXとしてこういうことが起きるんだな、と気付いたんです。
私たちでも、サービスを考えるときに、
船長と同じようにやってしまいがちなんですよね。
安藤
やりがちですね…
鳥越
「これを望んでいるでしょ、だからこれを用意しました」みたいに。
そうじゃないことって、
往々にしてあるんだなぁということを学びました。
安藤
面白いですね。
鳥越
普段の生活環境と違う場所に行くと、
社内で閉じこもっていると見えないことがよく起きますね。
安藤
特に、都内に住んでいると物凄く体験が希薄になっていきますよね。
ある企業から、
『UXデザインどうしたら良いでしょう?』
みたいな質問をいただいたとき、開口一番
『東京にいたら駄目ですね』
って言ったことがあります(笑)
鳥越
絶対そうだ、本当…
安藤
そうだと思いますよ。
何て言うのかな、表参道とかすごい綺麗だけど
様式化された行動しかとれないじゃないですか(笑)
鳥越
安藤
多様性って、あるように見えるけど
パターンっていうか、物凄い様式化されていますよね。
例えば、突然、道で蛇が出てくることって無いですよね。
蛇が出てくる必要性は何も無いんだけど(笑)
そういう大変な体験に出くわさないですよね。

僕は、ユーザーエクスペリエンスデザインに関わり始めた頃、
「うまくデザインできるようにする」ことに意識があって。
より良い体験がデザインできるにはどんな風に支援したらいいのか、
ということに関心があったんだけど、
ある時、気がついたんですね。

デザインする人が「これは良い体験だ!」
って思ってないのに、良い体験なんかデザインできない(笑)
鳥越
安藤
想像が巡れないのに、無理ですよ、どう考えたって。
だから、リサーチするにしても、
ユーザーが置かれている環境を外から見るだけじゃなく、
それ以上に、
ユーザーがどう感じるのかということに真摯に向き合う努力が大切で。

その努力を、デザイナー一人一人が続けていかないと、
ユーザーエクスペリエンスデザインって
絶対上手くいかないなということが、良く分かったんです。
ひとごとじゃ、絶対UXのデザインってできない。
鳥越
できないですよね。
でも、最近、ひとごとでやるデザイナーが増えた気がします。
安藤
そうですね。
言葉が先行しているからなのかな…そういう懸念は確かにありますね。
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