アジャイルプロセスにデザイナーは必要か 後編

「アジャイルプロセスにデザイナーは必要か 前編」の続きです。ここでは、アジャイルが求められる背景と、導入の方法、デザイナーをチームに入れるメリットについてご説明します。

 

それでもアジャイルが求められる背景

上記に上げた背景からすると、アジャイルプロセスを日本で行うことが難しいように感じてしまいます。なかなかフィットしないのに、それでもアジャイルプロセスを導入したいというリクエストが絶えない背景はどこにあるのでしょうか?

それはまず、日本が世界のIT産業で成功できていない背景が挙げられます。中国やインドへのオフショアは、マイクロソフトやグーグルでも行われているそうです。しかし、米国は依然としてソフトウェアエンジニアの給料は高く、世界的なソフトウェア・ITサービスの主戦場はシリコンバレーにある状況です。自動車や家電(最近は非常に厳しい状況ですが・・・)が世界を席巻した日本がなぜIT産業で勝てなかったか、という点で、その原因を”プロセス”にあるのではないか、と考えるようになっているのではないでしょうか。アウトソース先として、日本が欧米から仕事を得るには、人件費は高いし、英語力にも課題がある。といって自分たちでサービスを運営することも、なかなかうまく行かない。どのようにして欧米は、サービスを効率的に成長させることに成功しているのか?そこにはトヨタのかんばん方式のような、プロセスにヒントがあるのではないか?そのように考えられているのだと思います。

次に、ソフトウェアエンジニアの苦悩があります。長時間労働の代名詞にもなっているIT業界ですが、その過酷な労働環境はどこに原因があるのでしょう。

クライアントからの仕様変更への対応や、品質がなかなか向上せずバグが収束しない、その結果残業の毎日で、精神はすり減っていく。一方欧米のエンジニアは、定時できっちりと成果を出して帰っていく(実際そこまで全ての会社でそうなっていると思いませんが・・・)。それを実現しているのは、日本人と欧米人のマインドの違いではなく、プロセスの違いにあると私は考えています。スクラムプロセスでは、ビジネスの状況によって仕様が変わることを想定し、短く開発スケジュールを設定し、変化に対応しやすいように設計されています。また、品質も、テスト自動化やテスト自動化完了 = タスク完了といったプロセスを徹底することで、極力工数を下げ、効率を上げる取り組みをしています。開発プロジェクトに関わった経験がないと実感しづらいかもしれませんが、どう効率的に開発プロジェクトを運営するかというのは、エンジニアにとっては死活問題です。そこで、アジャイルがそれを解決するのではないか、と期待するのです。

 

では、アジャイルは我々の悩みを解決してくれるのか?

そのような状況下で、アジャイルは私たちの悩みを本当に解決してくれるのでしょうか。あくまで方法論なので、あらゆる問題を必ず解決するとは言えませんが、も課題に対しての改善のスピードは導入前よりも必ず向上します。ものづくりする組織をどう効率化するかに焦点を当てて取り組めば、経営にメリットをもたらします。

しかし、それには経営陣の理解がまず不可欠でしょう。前述のとおり、アジャイルは開発コストを下げ、成果を確実に出すことを保証するような代物ではありません。長期的視野でそのサービスやソフトウェアを成功させるためには、改善を繰り返せる組織にしなければならないのです。したがって、短期的なコスト減を追わず、1年2年のスパンで改善を繰り返す環境と組織を守る、マネジメントの存在が不可欠なのです。身も蓋もない話になってしまうのですが、現場主導の活動ですと全社的な動きにするには多大な時間と労力が必要です。アジャイルの導入には、マネジメントに理解してもらい支援してもらえるよう、働きかけるのが成功の鍵です。

 

デザイナーをアジャイルプロセスに導入するメリット

現在、デザイナーはアジャイルプロセスから遠い立場にいると思います。日本の職業別の縦割り構造上、開発部隊と密なコミュニケーションをとりながら少しずつデザインを詰めていくというプロセスは難しいです。しかし、私はアジャイル開発プロセスに是非デザイナーも組み込むべきだと考えています。理由は以下の3つです。

  1. プロジェクトが目指すべきビジョンを明確化することができる チームメンバーが主体的に動くためには、全員が自分のプロジェクトが目指しているビジョンを共有している必要があります。そのサービスを使って、ユーザーはどんな体験をするか、今作っている機能の使用頻度はいかほどか、将来にわたり設計を変えづらい基幹部分なのか、変化する可能性が大きい場所なのか。それを各チームメンバーが工夫しながら作業することで、仕様書には記載できない微妙なニュアンスを埋めてくれます。デザイナーはそのようなプロジェクトのビジョンを、ストーリーや利用シーンのスケッチ、イメージビデオなどを作ることで、チームメンバーのイメージを一つにまとめることができます。
  1. 技術的な課題をデザインで解決できる 実装するのに工数がかかることでも、デザインを工夫することで、実現したいことを成り立たせられることがあります。例えば、ステップ数をどうしても多くしないと実装できないことを、デザインでカバーし、ユーザーに負担を感じにくくするなどが可能です。逆に、指定したデザインを実装するのに非常に時間がかかるケースも、コミュニケーションが密にとれていれば、実装の負担が少ない代替案をデザイナーが提示できます。
  1. デザイナーは俯瞰して物事が見られる デザイナーは、よりマクロに物事を観察するのが得意な人種です。例えば、散々議論している機能はあまりユーザーに求められていなかったとか、ちょっとした例外を認めたばかりに著しく使い勝手や全体のコンセプトが崩れてしまう、などの事態はたまに起こりますが、デザイン的思考を取り入れると未然に防ぐとことが可能になります。デザイナーがこれらの視点を早いタイミングで指摘できれば、徒労に終わる無駄な作業を減らすことができ、より良いモノづくりへ前進します。

エンジニアとデザイナーが連携すると理想的なアジャイルチームになるでしょう。

 

デザインファームとアジャイルでうまくやる秘訣はあるのか?

最後に、デザインファームとアジャイルプロセスを進めることが可能なのかを考えてみます。

現状はほとんどの場合、デザイナーと実装部隊は異なる会社・組織であり、違う場所で活動しなければならないでしょう。したがって、アジャイルが完全に機能する形にすることは難しいと思います。しかし、それでもアジャイルなやり方で進めることは可能であり、有効でもあると考えています。

まず、プロジェクトの最初から最後までデザイナーが関われるように体制を構築することです。フェーズによって、多少デザイナーの工数は上下するかもしれませんが、サービスローンチまでではなく、その後もある一定の工数を確保して、継続的にチームに関わってもらえるようにあらかじめ体制を作っておくことが大事です。デザインファームと相談し、長く薄くでも良いから長期契約できないかを相談してみるのはいかがでしょうか。

そして、企画もエンジニアもデザイナーもフラットな関係を築けるような環境をつくり、発言権がどこかに集中したり誰かに過度な負担が偏らないよう、同じチームメンバーとして課題に取り組めるようににすることが大事でしょう。特に最近ではデザインの重要性が再認識されています。みなさんのチームの開発プロセスにデザイナーを加え、効率的で、優れたUXを実現するプロダクトづくりにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

伊東大輝

伊東 大輝

http://zeppelin.co.jp/

慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学卒業後ソニー株式会社に入社し、国内向けB2Bビジネスの営業に従事。その後、国内のネットワークサービス新規事業の立ち上げ、グローバルに展開するPlaystation Network系サービスの企画・プロジェクトマネジメントを行う。 2013年9月ZEPPELINに乗船。セールス、スクラム開発、チームビルディング、プログラムマネジメント、プロダクトオーナー、新規事業企画などの豊富なビジネス経験を活かし、様々なプロジェクトを牽引すると共に、外部研修会での講師も務める。

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